ゆるやかに、たゆとうような舞曲。


生み出される音、音、音。
そこには苦しみが、辛さが、否応なしに重ねられていく。


妖精なんているわけない。
奇跡だの魔法だの、あっていいわけがない。

現実はそういう冷たいものだとわかっていたからやってこれたのに。
そんなものがあったら、今までの自分が全部崩れてしまう。
耐え難くて、目も耳も塞ぎたくて、
だがそれと同時に、それを強く強く欲する心の声。

降って湧いたものを享受するのは、卑怯だ。
何の努力もせずに背を向けるのが当たり前だったくせに。

――でも初めて知ったから。
落ち着かなくなる、内で渦巻き続けるこの衝動。
そっと触れた時のかすかな振動。
力を込めた時の芯を振るわせるような高音。

それを教えてくれたひと。

"誰か"にそばにいてほしいとは思わない。
"誰でもいい誰か"だったらいなくたって寂しくない。
いくらだって一人でいられた。

でもその"誰か"が形を持ってしまったら。
自分に笑顔を向けてくれてしまったら。
失いたくない、そばにいてほしいと、そう思ってしまう。

わがままな心。
認めたくなかった自分の姿。
天からのヴァイオリンを失った日、全部捨てて逃げ出さなかったのは、
あの人のおかげだった。

 『王崎さんの、一番…楽しくなる曲を…弾いてくれませんか』

あの時、弾いてくれた曲。
こんな嘘まみれの自分にはあの人のように穏やかな心地になれる音色はとても奏でられないけど、
それでも、精一杯の感謝をこめて、弾きたかった。


…… ありがとう、ございます。


今はこの気持ちだけ。














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09.07.21 hisaku


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